紅茶の一杯を分析することは、生命の一瞬を味わうことに似ている。
「紅茶のフレーバーホイール(風味の輪)」は、
愛飲家・ティーブレンダー・製茶職人・商品開発者が、
紅茶の香味を共通の言語で語るための“感情の地図”である。
これは、言葉では捉えにくい感覚の層を明確に名づけるための専門的なツールでもある。

1. 紅茶フレーバーホイールの構造
フレーバーホイールは、紅茶が持つ香りと味の全体像を示す図。
3つの層で構成されている。
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内層:大分類(例:基本香・果香・甘香・植物香・花香・その他・焙煎香・余韻)
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中層:より具体的なカテゴリ(例:シトラス、モルト、青草、スパイスなど)
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外層:詳細な香りのノート(例:オレンジ、ドライマンゴー、カモミール、黒糖など)
ホイールを理解することで、紅茶の香味構造を立体的に把握できる。

2. フレーバーホイールの使い方
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中心から外へ読む:大分類 → 小分類 → 香りの具体例へ。
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層ごとに感じる:乾いた茶葉 → 温まった茶葉 → 湯を注いだ瞬間 → 飲後の香り。
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味で捉える:入口の印象(渋・甘)、ボディ(厚み・まろやかさ)、余韻(長さ・心地よさ)。
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表現を具体的に:「香りがいい」ではなく、「蜂蜜の香り、深い味わい、長く続く甘い余韻」と言葉にする。
ホイールを使った訓練は、職人には感覚を磨く道具となり、
飲み手には自分の好みを見つける手助けとなる。
3. 紅茶の主な香りのグループ
🍊 果香(フルーティーアロマ)
明るく生き生きとした香り。上質な紅茶や軽い発酵度の茶葉によく見られる。
ノート:オレンジ、リンゴ、ライチ、ドライマンゴー、熟したプラム、レーズン。
秋の果実を思わせる自然な甘さが特徴。
🍯 甘香(スウィートアロマ)
親しみやすく、包み込むような甘い香り。
ノート:蜂蜜、焦がし砂糖、ミルクパウダー、キャラメル、ミルクチョコレート。
厚みのある口当たりと柔らかい余韻を生む。
甘香をもつ紅茶は、多くの人に「やさしさ」と「安心感」を与える。
🌿 植物香(ヴェジタルアロマ)
素材そのものの息づかいを感じる香り。
軽発酵・低焙煎の紅茶に多く見られる。
ノート:青草、蒸し豆、ドライハーブ、干し草、若芽。
自然で清潔感のある印象を与え、甘香とのバランスを整える。
🌸 花香(フローラルアロマ)
繊細で上品な層。
ノート:ジャスミン、オレンジフラワー、カモミール、ラン、金木犀。
中温での抽出や冷めかけた時に、ふわりと花の香りが広がる。
紅茶に安らぎと情緒の深みを添える香りである。
🌰 その他の香り(コンプレックスアロマ)
製茶技術の個性が現れる層。
ノート:モルト、ローストナッツ、軽いスモーク、ウッド、シナモンなど。
これらは紅茶の「奥行き」と「手仕事の痕跡」を形づくる。
4. 味わいと余韻
🔸基本味:甘・渋・ほろ苦・微辛・わずかな塩味。
紅茶の“ボディ”がしっかりしているほど、味に丸みと深みが生まれる。
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濃い紅茶:厚みがあり、余韻が深く続く。
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軽い紅茶:輪郭がはっきりし、爽やかな印象。
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わずかな苦味:全体の味を引き締める。
🔸余韻(アフターテイスト)
飲み終えた後に残る感覚。
長く、柔らかく、清らかで爽快な余韻をもつ紅茶は、
丁寧な製法と優れた保存状態の証。
滑らかで持続する甘い後味こそが、上質な紅茶の印。
5. 技術レベル・嗜好別の香味バランス
▫️ライトタイプ:フルーティー、ジャスミン、軽いミルク香。
▫️ミディアムタイプ:黒糖、蜂蜜、軽いローストナッツ、温かみのある余韻。
▫️ストロングタイプ:ダークチョコレート、スモーク、焦がしキャラメル、深く厚みある後味。
6. フレーバーホイールの活用方法
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乾いた茶葉を嗅ぐ:第一印象の香り(花・草・甘)を確認。
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湯を注いだ瞬間に嗅ぐ:揮発しやすい香り(柑橘、蜂蜜、スモーク)を感じ取る。
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口に含む:最初の味 → 中盤 → 余韻の移ろいを意識する。
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ホイールで照合:感じた香りを該当グループにマッピングする。
繰り返し記録をとることで、自分の嗜好が明確になり、
茶葉の種類・焙煎・産地ごとの差をより深く理解できる。

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